自然災害からの避難行動として、地下街やビル・乗り物など閉鎖空間からの避難経路や誘導方法が研究されておりましたが、東日本大震災以前は多くの避難者が殺到するという場面がありませんでした。実際に震災時には多くの人々が避難しましたが、渋滞・混雑でうまく逃げられなかったことが分かりました。
避難を始めた人に、「どう避難を促すか?」「避難のさせ方は?」と両方の考えが必要ですが、先生の研究は「避難のさせ方」についてを考えています。震災前までの交通法で車はキーをつけたまま左路肩に止め徒歩で避難するとされておりましたが、それでは迫りくる津波からは逃げられないということで2012年3月8日に教則が一部改正され、やむを得ない場合は自動車での避難が容認されました。
しかし2012年12月7日の三陸沖地震や2016年11月22日の福島県沖地震の津波警報では道路渋滞が多発してしまい、これにより復興計画を進める上で津波避難計画を急いで作成することが重要であると訴えられております。例として宮城県亘理町では平成26年2月に避難計画が策定されましたが、道路ネットワーク上の混雑や渋滞の発生場所・所要時間などの交通工学的検討はなされていません。車利用避難計画の実効性を保証するためには被災状況・被災地アンケートに基づく行動原理を仮定し、安全に避難できるかを「シミュレーション」で確認するか、または「数学的最適化」により道路網を最大限うまく活用する、という方法があります。先生はこの「数学的最適化」を利用し研究を展開されております。この計算からわかったことは「相乗りをして車輌数を少なくする」、「経路を分散して誘導する」、「自分の安全のみではなく、地域全体の安全に配慮する」、「避難所に逃げ込むのではなく危険場所から逃れる」ということでした。また現在のコロナ禍の災害避難への示唆としても同様のことを言われております。全ては時間的余裕がないとできないことなので、特に昨今多くなってきた水害においては、平常時に避難先を予約しておくシステムなどがあると避難者の管理や、意識的に早めの避難開始を促すことになると提案されていました。